ウィーン版『ルドルフ』の魅力と見どころをご紹介!
オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフと皇妃エリザベートの一人息子で、世紀の心中事件「マイヤーリンク事件」で知られる、皇太子ルドルフ。世紀末ウィーンを舞台に、時代の流れに翻弄される皇太子の最期の数か月を描いた、ミュージカル『ルドルフ』のウィーン版映像が、日本で初めて放映されます!
ミュージカル『エリザベート』や『モーツァルト!』を生み出したウィーン劇場協会が、『ジキル&ハイド』や『スカーレット・ピンパーネル』の作曲家フランク・ワイルドホーンと組んで制作したこの作品は、ウィーンミュージカル界の超豪華スターたちを擁し、ウィーンで2009年からロングラン公演が行われました。
『ルドルフ』の見どころや出演者、『エリザベート』との関連を交えながら、ウィーンでミュージカルを見続けてきた現地ライターが、この作品の魅力や楽しみ方をご紹介します。
●『ルドルフ』ってどんな作品?
19世紀末のウィーン。皇妃エリザベートの一人息子で、ハプスブルク帝国の皇太子として生まれたにもかかわらず、時代の波に飲み込まれ、恋人マリー・ヴェッツェラとの心中事件で世界を騒がせた皇太子ルドルフ。世界中で知られたこの悲劇は、『うたかたの恋』など多くの作品の題材となっています。
ミュージカル『ルドルフ』は、ウィーン劇場協会の制作により、本国オーストリアに先立って、ハンガリーの首都ブダペストで2006年に初演されました。その後2008年の日本公演を経て、翌年に本場ウィーンでデヴィッド・ルヴォーの演出のもと上演され、1年間のロングランを記録。2012年には、日本でもこのルヴォー演出版が上演されています。
世界初演のブダペスト版とウィーン版の両方をリアルタイムで観劇しましたが、ブダペスト版はクラシックで個性豊かな印象を、それに対してウィーン版は、ルドルフの心情や時代の閉塞感を反映した、モダンでスタイリッシュな演出という印象を受けました。楽曲の美しさは両演出とも際立ち、ミュージカル『エリザベート』との共通点も記憶に強く刻まれています。

●ワイルドホーンの名曲とルヴォー演出の魅力
この作品の一番の魅力は、『ジキル&ハイド』や『スカーレット・ピンパーネル』、『デスノート』など、日本でも愛されるミュージカルを何作も作曲した、フランク・ワイルドホーンのロマンチックでメロディアスな名曲の数々です。
ルドルフが明るい未来への希望を歌い上げる「明日への階段」、愛し合う二人の美しいラブソング「二人を信じて」や「Something More」は、コンサートで歌われることも多く、作品は未見でも、曲を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。ほかにも、ルドルフが束縛された人生を嘆く「名もなき男」や、国民を操る首相ターフェが歌う迫力ある「手の中の糸」など、さまざまな名曲が作品を彩ります。
また、デヴィッド・ルヴォーの赤と黒を多用したスタイリッシュな演出は、世紀末ウィーンという時代の華やかさと閉塞感の対立を視覚化しています。優美なアール・ヌーヴォー様式の建築や、アイススケートの軽やかさ、宮殿の調度品など、舞台美術のディテールも合わせてお楽しみください。

●『エリザベート』との関係は?
同時代を描いたウィーンミュージカル『エリザベート』と『ルドルフ』の関連も気になりますよね。『エリザベート』の後半に登場する皇太子の葛藤の背景が、『ルドルフ』では主軸に据えられています。
皇妃エリザベート本人は、『ルドルフ』の舞台となる1888~89年にかけてウィーンを留守にしがちだったこともあり、この作品での出番はありませんが、ルドルフが母を気にかけている様子が、セリフの各所に見られます。一方、皇帝フランツ・ヨーゼフは、進歩的な息子を諌める頑固な父親として登場します。時代の流れに合わせて帝国を変えたいルドルフに対し、古いやり方にしがみつき、ルドルフと対立する皇帝。『エリザベート』での、父と息子の確執を彷彿とさせます。

ヒロインのマリー・ヴェッツェラは、『エリザベート』では抽象的な存在でしたが、『ルドルフ』では強い芯を持つ女性として描かれています。また、ルドルフは新しい時代を見据え、偽名で新聞記事を投稿していますが、この新聞の編集長モーリッツ・ツェップスは、日本版『エリザベート』でもおなじみです。また作中の一場面で登場するハンガリー人貴族アンドラーシは、『エリザベート』に登場するジュラと同一人物という位置づけとなっています。
歴史上の人物を別の視点から見ることができるのも、ウィーンミュージカルの魅力の一つですね。

●作品を彩るウィーンミュージカルのスターたち
この作品で主役ルドルフを演じるドリュー・サリッチは、ウィーンミュージカル界トップレベルの大スターです。アメリカ生まれのドリューは、ドイツ語圏で『ジキル&ハイド』や『ドラキュラ』などのワイルドホーン作品で主役を演じたほか、『ジーザス・クライスト=スーパースター』のジーザス役がはまり役。ロックでパワフルな歌声と、大きな存在感が魅力で、光と闇の両面を抱えた難しい役ほど、彼の歌唱力と演技力が際立ちます。本作では、ワイルドホーンの美しい楽曲に乗る彼のエモーショナルな高音と、束縛の中で愛に希望を見出す演技が見所となっています。

さらに見逃せないのが、ターフェ首相を演じる大御所スター、ウーヴェ・クレーガー。初演『エリザベート』のトート役や初演『レベッカ』のマキシム・ド・ウィンターなどを演じた、ウィーンミュージカルの歴史に燦然と輝く大スターです。ピンと張った高音の迫力と、ドラマチックな演技が大きな魅力で、年齢を重ねるごとに演じる役の幅が広げ、新しい一面を見せ続けてくれます。

ヒロイン、マリー・ヴェッツェラ役のリザ・アントーニは、この作品で抜擢された新進気鋭の若手です。ルドルフの妻で皇太子妃ステファニー役のヴィーツケ・ファン・トンゲレンは、ウィーン初演版『レベッカ』の「私」役で、大御所ウーヴェと組んで一躍脚光を浴びました。また、マリーをルドルフに紹介するラリッシュ夫人役を演じたカリン・フィリプチッチは、 ウィーン版『ロミオ&ジュリエット』の乳母役や、『レベッカ』のヴァン・ホッパー夫人などを務めた大人気の名脇役女優です。二人ともソロ曲があり、素晴らしい歌声を聞かせてくれます。

超豪華キャストが揃ったルドルフ。ぜひ素晴らしい映像で、スターたちの美声だけでなく、細かい演技や表情までじっくりご堪能くださいね。
●「マイヤーリンク事件」の史実を巡る
この作品での「マイヤーリンク事件」は、皇太子ルドルフとマリー・ヴェッツェラの愛の終着点という描かれ方をしていますが、史実はさらに複雑で、外交、内政、健康状態、後継者問題、人間関係など、全方位的に八方ふさがりとなったルドルフの、最後のあがきであったと解釈されています。
作中で何度もマリーが「そこへ連れて行って」と焦がれ、心中事件の現場となったマイヤーリンクは、ウィーンの森に位置するハプスブルク家の狩猟の館でした。事件後に改修され、現在は修道院と資料館になっています。

皇太子ルドルフは、事件のあとでハプスブルク家の霊廟であるカプツィーナ納骨堂に埋葬されましたが、マリー・ヴェッツェラは、マイヤーリンクからほど近いハイリゲンシュタットの墓地に埋葬されています。様々な謎が残されるこの事件ですが、二人の足跡をたどってみたい方はぜひ訪れてみてください。
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美しい楽曲と豪華キャストでお届けする、ウィーン版『ルドルフ』。日本版をご覧になった方も、『エリザベート』を通して皇太子ルドルフの悲劇を知った方も、様々な視点から理解が深まる作品です。
ハプスブルク家の歴史や、世紀末ウィーン独特の空気感、歴史上の人物が「ひとりの人間」として、選んだその答えに、皆さんはどう感じるでしょうか?ぜひ、名曲と共に歴史に思いを馳せてみてくださいね。
文:御影実
★放送・配信情報★
ミュージカル「ルドルフ」ウィーン版
■放送・配信日:2026/3/28(土) 午後7:30よりWOWOWにて放送‧配信予定
■スタッフ‧キャスト
音楽:フランク・ワイルドホーン 脚本・歌詞:ジャック・マーフィ 追加歌詞:ナン・ナイトン 原作:フレデリック・モートン著『ルドルフ ザ・ラスト・キス』(集英社日本版著書) 脚色:フランク・ワイルドホーン&フィービー・ファン 原案:フランク・ワイルドホーン&スティーブ・キューデン 編曲:キム・シャーンバーグ 編曲・追加オーケストレーション:クン・シューツ ドイツ語翻訳:ユリア・ゼンクストシュミット(脚本)、ニナ・イェーガー(歌詞)
演出:デヴィッド・ルヴォー 美術:マイク・ブリットン 振付:ジョン・オコネル 衣装:ローラ・ホプキンス 照明:パトリック・ウッドロフ(アダム・バセット協力) 音響:ヘンドリック・マーセン(マティアス・ライトホーファー協力)
出演:ドリュー・サリッチ(皇太子ルドルフ役(オーストリア皇太子))、リザ・アントーニ(マリー・ヴェッツェラ役(男爵令嬢))、ウーヴェ・クレーガー(ターフェ役(オーストリア首相))、クラウス・ダム(フランツ・ヨーゼフ役(オーストリア皇帝))、カリン・フィリプチッチ(ラリッシュ役(伯爵夫人))、ヴィーツケ・ファン・トンゲレン (役名:ステファニー(皇太子妃))
■収録⽇:2009年6⽉19⽇、20⽇
■収録場所:オーストリア・ウィーン ライムント劇場
■番組サイト:https://news.wowow.co.jp/2514.html