4団体統一世界スーパー・バンタム級タイトルマッチ 井上尚弥対ムロジョン・アフマダリエフ

万能型同士のハイレベルの攻防か
ワンパンチ決着の可能性も
4階級制覇を成し遂げている4団体統一世界スーパー・バンタム級王者の井上尚弥(32=大橋)が、元WBA、IBF同級王者で現WBA暫定王者のムロジョン・アフマダリエフ(30=ウズベキスタン)を迎えて防衛戦に臨む。井上はアフマダリエフを「キャリア最大の強敵」と位置づけて警戒。2回に不覚のダウンを喫した5月のラモン・カルデナス(アメリカ)戦とは異なる慎重な戦いをする可能性が高い。
満点に近い戦力を備えている井上だが...
井上はライト・フライ級、スーパー・フライ級、バンタム級、そして現在のスーパー・バンタム級で世界制覇を果たしており、世界戦だけで25戦全勝(23KO)を記録している。すでに世界戦におけるKO勝ちの数は歴代1位で、勝利数もフリオ・セサール・チャベス(メキシコ)の31勝に迫っている。スピード、パワー、テクニック、ボクシングIQ、スタミナ、経験値など満点に近い戦力を備えているといっていい。世界的な評価も極めて高く、アメリカの老舗専門誌「The Ring」ではパウンド・フォー・パウンドの2位にランクされている。
不安があるとすれば昨年5月のルイス・ネリ(メキシコ)戦と先のカルデナス戦で左を浴びてダウンを喫している点だろう。井上にしては珍しく慎重さ、冷静さを欠いたためでもあるが、ライバルたちに隙を見せ、希望を与えてしまったのは事実だ。これに加えカルデナスの指導者、ジョエル・ディアス トレーナーの弟で世界挑戦経験者のアントニオ・ディアス トレーナーがアフマダリエフのチーフである点は気になるところといえる。井上の戦績は30戦全勝(27KO)。
豊富なアマ経験をベースにプロ8戦目で戴冠果たしたアフマダリエフ
アフマダリエフはアマチュア時代に2015年世界選手権準優勝、2016年リオデジャネイロ五輪銅メダル獲得など輝かしい実績を残している。プロ転向1年半、6戦目で戴冠を果たした井上ほどではないが、アフマダリエフもプロ2年弱、8戦目でWBA、IBF世界スーパー・バンタム級王座獲得を果たしている。このスピード出世はアマチュアで320戦(300勝20敗)というベースがあったからといえよう。
2023年4月、4度目の防衛戦でマーロン・タパレス(フィリピン)に12回判定負けで2団体王座を失ったが、このときは骨折した左拳が完治しないままリングに上がり、試合序盤で再び痛めたことが響いたと陣営は説明している。ちなみに、その年7月に井上がスティーブン・フルトン(アメリカ)を下してWBC、WBO王座を獲得。12月にタパレスに10回KO勝ちを収めて4団体王座を統一したが、もしもアフマダリエフがタパレスに勝っていれば、もっと早く井上との対戦が実現していた可能性がある。
タパレス戦後、アフマダリエフはWBA暫定王座を獲得するなど3連続KO勝ちを収めている。戦績は15戦14勝(11KO)1敗。
静から動へ 突然のワンパンチ決着の可能性も
井上が右構え、アフマダリエフがサウスポーという違いはあるものの、ふたりとも離れても中間距離でも接近しても戦える万能型で、一発で仕留めるパワーがある。そのため両者とも序盤は慎重に構えるのではないだろうか。スピードと動きで勝る井上は左ジャブを差し込み、機を見て右ストレート、左ボディブローを狙うものと思われる。アフマダリエフは井上の打ち終わりに右フック、左ストレートを合わせて一気にロープやコーナーに詰めたいところだ。
緊迫した展開のなか突然、一発で勝負が決する可能性もあるだけに一瞬たりとも目が離せない試合になりそうだ。
<TALE OF THE TAPE 両選手のデータ比較表>
井上尚弥 | アフマダリエフ | |
生年月日/年齢 | 1993年4月10日/32歳 | 1994年11月2日/30歳 |
出身地 | 座間市(日本 神奈川県) | チュスト(ウズベキスタン) |
アマ実績 | 2011年世界選手権出場 | 2015年世界選手権準優勝 2016年リオ五輪銅メダル獲得 2017年世界選手権出場 |
アマ戦績 | 81戦75勝(48KO)6敗 | 320戦300勝20敗 |
プロデビュー | 2012年10月 | 2018年3月 |
戦績 | 30戦全勝(27KO) | 15戦14勝(11KO)1敗 |
KO率 | 90% | 73% |
世界戦 | 25戦全勝(23KO) | 6戦5勝(3KO)1敗 |
獲得世界王座 | WBC Lフライ級 WBO Sフライ級 4団体バンタム級 4団体Sバンタム級 |
WBA、IBF Sバンタム級 |
身長/リーチ | 165cm/171cm | 166cm/173cm |
戦闘スタイル | 右ボクサーファイター型 | 左ボクサーファイター型 |
トレーナー | 井上真吾 | アントニオ・ディアス |
ニックネーム | 「モンスター」 | 「MJ」 |
<アフマダリエフ 全世界戦>
2020年1月 | ダニエル・ローマン(アメリカ) (WBA、IBF世界スーパー・バンタム級王座獲得) |
〇12回判定 | |
2021年4月 | 岩佐亮祐(セレス) ※岩佐はIBF暫定王者=IBF団体内統一戦 |
〇5回TKO | 防衛1 |
2021年11月 | ホセ・ベラスケス(チリ) | 〇12回判定 | 防衛2 |
2022年6月 | ロニー・リオス(アメリカ) | 〇12回TKO | 防衛3 |
2023年4月 | マーロン・タパレス(フィリピン) (WBA、IBF世界スーパー・バンタム級王座失う) |
●12回判定 | |
2024年12月 | リカルド・エスピノサ(メキシコ) (WBA暫定世界スーパー・バンタム級王座獲得) ―― 6戦5勝(3KO)1敗 ―― |
〇3回TKO |
<スーパー・バンタム級トップ戦線の現状>
WBA:井上尚弥(大橋)
暫定 :ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)
WBC:井上尚弥(大橋)
IBF :井上尚弥(大橋)
WBO:井上尚弥(大橋)
井上が2年前にスーパー・バンタム級に転向して以来、「モンスター」の天下が続いている。井上が8回TKOで下してWBC、WBO王座を奪った相手、スティーブン・フルトン(アメリカ)はフェザー級に転向し、さらにスーパー・フェザー級でWBC王座に挑むことが決まっている。いまさらだが、よくもそんな大きな相手を圧倒したものだと改めて感心してしまう。
すでに4団体統一王座を4度防衛している井上にとって眼前の敵はWBA暫定王者のムロジョン・アフマダリエフ(30=ウズベキスタン)である。体力、馬力があってパンチ力があるだけに怖いサウスポーだが、井上がスピードを生かして戦えば番狂わせは起こらないのではないだろうか。
これをクリアした場合、井上は12月にサウジアラビアでWBC1位のアラン・ピカソ(25=メキシコ)の挑戦を受けるプランが進行中と伝えられる。33戦32勝(17KO)1分のピカソは期待の新鋭ではあるが、まだ井上を脅かすレベルには至っていないと思われる。同じことはWBO1位にランクされる26戦全勝(20KO)のサウスポー、カール・マーティン(26=フィリピン)にもいえそうだ。
こうした一方、8月31日付のWBAランキングで中谷潤人(M.T)がスーパー・バンタム級1位に入ってきた。かねてから「2026年5月 東京」という計画が持ち上がっている井上対中谷のスーパー・ファイトが着実に近づいている印象だ。もちろん両者ともに1試合、または2試合をクリアしなければならないが。
WBO世界バンタム級タイトルマッチ
武居由樹対クリスチャン・メディナ
左強打の王者 vs 連打型の挑戦者
オッズは7対1 武居有利
昨年5月、K-1王者からプロボクシングに転向して9戦目でWBO世界バンタム級王座を獲得した武居由樹(29=大橋)が、来日経験もあるWBO1位の指名挑戦者、クリスチャン・メディナ(25=メキシコ)を迎え撃つ。前戦では左ストレートの強打で127秒の間に3度のダウンを奪って防衛を果たした武居と、これがプロ30戦目になる連打型のメディナ。序盤から激しい主導権争いが見られそうだ。
サウスポーの武居は遠い距離からいきなり左ストレートを顔面、またはボディに打ち込んでくることが多い。相手にとってはタイミングや軌道が読みにくいのか、警戒していながら被弾してしまうという印象が強い。王座を獲得したジェーソン・モロニー(オーストラリア)戦では最終回の大ピンチを凌ぎ、比嘉大吾(志成)との初防衛戦は11回にダウンを喫しながら最終回に攻め抜いて勝利をものにするなど、世界の舞台で貴重な経験を積んできている。今年5月のV2戦は力に差があったとはいえ、15戦全勝の挑戦者に何もさせずに1回TKOで屠っている。戦績は11戦全勝(9KO)。
「Chispa(火花)」というニックネームを持つメディナは2017年12月にプロデビュー。WBCユース王座を獲得するなどして世界戦線に浮上し、2年前には来日して西田凌佑(六島)とIBFの挑戦者決定戦に臨んだが、接近戦を拒まれて12回判定負けを喫している。その後はWBO中南米王座を獲得するなど4連続KO勝ちと勢いを取り戻している。自ら圧力をかけて距離を潰して連打に持ち込む好戦派だが、左フックを合わせたり右ストレートのカウンターを放ったりとスキルもある。
挑戦者がプレッシャーをかけ、サウスポーの武居が適度に足をつかいつつ左ストレート、右フックで距離を保とうとする展開が予想される。武居の左が突き刺さるか、それともメディナの連打が炸裂するか。オッズは7対1、武居有利と出ている。(9月5日時点)
<TALE OF THE TAPE 両選手のデータ比較表>
武居由樹 | クリスチャン・メディナ | |
生年月日/年齢 | 1996年7月12日/29歳 | 2000年4月22日/25歳 |
出身地 | 足立区(東京都) | メキシコ |
プロデビュー | 2021年3月 | 2017年12月 |
戦績 | 11戦全勝(9KO) | 29戦25勝(18KO)4敗 |
KO率 | 82% | 62% |
獲得王座 | 東洋太平洋Sバンタム級 WBO世界バンタム級 |
WBCユース バンタム級 WBO中南米バンタム級 |
世界戦の戦績 | 3戦全勝(1KO) | |
身長/リーチ | 170cm/173cm | 165cm/170cm |
戦闘スタイル | 左ボクサーファイター型 | 右ボクサーファイター型 |
WBA世界ミニマム級王座決定戦
高田勇仁対松本流星
雑草 vs エリート 27歳同士の対決
8敗の新王者誕生か 7戦目の戴冠か
27戦16勝(6KO)8敗3分の高田勇仁(27=ライオンズ)と、プロ転向後6戦全勝(4KO)の松本流星(27=帝拳)が、空位のWBA世界ミニマム級王座をかけて拳を交える。挫折を糧に這い上がってきた雑草か、それともアマチュア4冠の実績を持つサウスポーのエリートか。興味深い組み合わせだ。
高田は日本人の父親、フィリピン人の母親のもとフィリピンで生まれ、8歳で日本に移住。2015年8月、17歳になるのを待ってプロデビューした。しかし、ミニマム級の体重に満たない軽量だったこともあり挫折が続き、2019年から2021年にかけて6戦して勝利のない苦しい時期も経験した。しかし、その後は肉体改造の効果もあり覚醒。2022年から8連勝(3KO)を収めて世界トップ戦線に浮上してきた。日本王座に続き今年1月には小林豪己(真正)との世界ランカーも制しWBOアジアパシフィック王座も獲得している。
そんな高田とは対照的に松本はエリートコースを歩んできた。幼少期にボクシングを始め、全日本選手権など国内4大会で優勝を収め、92戦77勝15敗のアマチュア戦績を残している。2023年2月にプロ転向を果たすと4戦目には日本ミニマム級王座を獲得。ちなみにこの王座は高田が返上したものだった。今年2月の初防衛戦を4回KOでクリアすると6月の全勝でも4回KO勝ちを収めている。
KO率だけを見ると高田が22パーセント、松本が67パーセントと数字上は差があるが、高田も小林戦で右アッパーからの左フックでダウンを奪ったようにパンチ力に自信を深めている。サウスポーの松本はプレッシャーをかけながら繰り出す左ストレート、右フックに加え上下の打ち分けも巧みだ。10年かけて大舞台に辿り着いた高田が雑草の強さを見せつけるのか、それとも松本がプロ転向後2年7ヵ月、7戦目で世界一の座を射止めるのか。序盤から激しいペース争いが見られそうだ。
<TALE OF THE TAPE 両選手のデータ比較表>
高田勇仁 | 松本流星 | |
生年月日/年齢 | 1998年6月10日/27歳 | 1998年5月14日/27歳 |
出身地 | ダエト(フィリピン ルソン島) | 高砂市(兵庫県) |
アマ戦績 | 92戦77勝(6KO)15敗 | |
プロデビュー | 2015年8月 | 2023年2月 |
戦績 | 27戦16勝(6KO)8敗3分 | 6戦全勝(4KO) |
KO率 | 22% | 67% |
獲得王座 | 日本ミニマム級王座 WBOアジアパシフィック王座 |
日本ミニマム級王座 |
身長/リーチ | 157cm/159cm | 160cm/156cm |
戦闘スタイル | 右ボクサーファイター型 | 左ボクサーファイター型 |
◆[WOWOW エキサイトマッチ 放送・配信情報]◆
4団体統一世界S・バンタム級タイトルマッチ
井上尚弥 vs ムロジョン・アフマダリエフ
WBO世界バンタム級タイトルマッチ
武居由樹 vs クリスチャン・メディナ
9/22(月)午後9:00
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井上 尚弥 NAOKI FUKUDA、アフマダリエフ Getty Images