WOWOWニュース

IBF世界ライト級王座決定戦 ワシル・ロマチェンコ対ジョージ・カンボソス

元王者同士が王座復帰をかけて対戦
ロマチェンコのスキルが凌駕か

 4団体統一王者だったデビン・ヘイニー(アメリカ)がS・ライト級に転向したために空いた王座の決定戦。現IBF3位のワシル・ロマチェンコ(36=ウクライナ)はフェザー級、S・フェザー級、ライト級の3階級で王座を獲得した実績を持つ技巧派サウスポーで、勝てばライト級では3年半ぶりの返り咲きとなる。一方のカンボソスも事実上の元4団体統一王者で、2年前にヘイニーに奪われた王座の奪還をかけてリングに上がる。カンボソスのホーム、オーストラリアで行われる元王者同士の試合だが、オッズは6対1、あるいは7対1でロマチェンコ有利と出ている。

惜敗から1年 再起戦=世界戦のロマチェンコに不安要素も

 ロマチェンコはアマチュア時代に五輪と世界選手権で各2度、金メダルを獲得するなど397戦396勝1敗という驚異的な戦績を残し、2013年10月にプロに転向した。3戦目でフェザー級、7戦目でS・フェザー級、12戦目でライト級の世界王座を獲得するなど特別な才能を見せつけてきた。
 左構えで相手と対峙するが、瞬時に前後左右に移動して被弾を避けつつ同時に攻撃し、打ったと思ったら離れ、離れたと思ったら接近してボディと顔面に打ち分ける。そんな独特なボクシングで世界のトップ選手たちを翻弄し、長い間「パウンド・フォー・パウンド」の上位常連となっていた。
 しかし、身長170cm、リーチ166cmの体格はライト級では決して大きくなくパワー不足が指摘されてきたのも事実だ。それをスピードとスキル、高い経験値でカバーしてきたのだが、2020年以降は攻撃型のテオフィモ・ロペス(アメリカ)、体が大きくスピードもあるヘイニーに競り負けるなど陰りも見え始めている。今年2月で36歳になり、さらにウクライナがロシアの軍事侵攻を受けている状況とあって最近は質の高いトレーニングができているのか心配する声が多い。16度の世界戦を含めた戦績は20戦17勝(11KO)3敗。今回はヘイニー戦から1年後の再起戦でもある。

闘志を前面に出して戦う根性型のカンボソス

 カンボソスはアマチュアで100戦(85勝15敗)を経験後の2013年5月にプロデビュー。オーストラリアの国内王座やIBFパンパシフィック王座などを獲得して頭角を現した。2017年にはジェフ・ホーン(オーストラリア)戦を控えたマニー・パッキャオ(フィリピン)のスパーリング・パートナーを務めたこともある。
 2021年11月、ロマチェンコを破って意気上がるロペスにIBFの指名挑戦者としてチャレンジ。初回にダウンを奪ってハイペースで飛ばした。途中で失速し、10回には自らがダウン。これで流れが完全に変わるかと思われたが、逆にカンボソスは奮起して最終盤を支配して僅少差の判定勝ちを収めた。この試合でWBCフランチャイズ(特権)王座を含め4団体王座を獲得した。
 翌2022年初夏、カンボソスは地元に元王者のロマチェンコを迎えて初防衛戦を計画。両陣営が合意とも伝えられたが、そんな折りにロシアのウクライナへの軍事侵攻が始まり、ロマチェンコはオーストラリア行きを辞退したという経緯がある。代わりにカンボソスと対戦したのがWBC王者だったヘイニーである。この試合でカンボソスは大差の判定負けを喫して全王座を失い、4ヵ月後の再戦でも同じ結果に終わった。
 昨年7月の再起戦(12回判定勝ち)を含めた戦績は23戦21勝(10KO)2敗。決定打に欠けるものの闘志を前面に出して戦う勇敢な選手で、スタミナもある。

ロマチェンコの調整具合に注目

 地元の声援を背にカンボソスが仕掛け、サウスポーのロマチェンコが迎え撃つ展開でスタートしそうだ。注目したいのはロマチェンコのコンディションだ。ヘイニーに惜敗してから1年のブランクがあるうえ、自国がロシアの軍事侵攻を受けているなかで心身ともにベストの状態でリングに上がることができるのかどうか。調整が問題ないようならばカンボソスを手玉にとって毎回のようにポイントを積み重ねることになりそうだ。オッズが示すようにロマチェンコの判定勝ちが最有力といえよう。
 一方、十分なコンディションがつくれず、さらに年齢とブランクから来る錆が見えるようだと相手の圧力に押され苦戦も考えられる。

<TALE OF THE TAPE 両選手のデータ比較表>


  ロマチェンコ カンボソス
生年月日/年齢 1988年2月17日/36歳 1993年6月14日/30歳
出身地 ウクライナ・ビルホロドドニストロフスキー オーストラリア・シドニー
アマチュア実績 2008年北京五輪 フェザー級金
2012年ロンドン五輪 ライト級金
2009年,11年 世界選手権優勝
 
アマチュア戦績 397戦396勝1敗 100戦85勝15敗
プロデビュー 2013年10月 2013年5月
獲得王座 WBOフェザー級
WBO S・フェザー級
WBA,WBC,WBOライト級
4団体統一世界ライト級
(WBCフランチャイズ王座を含む)
プロ戦績 20戦17勝(11KO)3敗 23戦21勝(10KO)2敗
KO率 55% 43%
世界戦の戦績 16戦13勝(9KO)3敗 3戦1勝2敗
直近の試合 2023年5月(12回判定負け) 2023年7月(12回判定勝ち)
身長/リーチ 170cm/166cm 175cm/173cm
戦闘スタイル 左ボクサーファイター型 右ボクサーファイター型
ニックネーム 「ハイテク」 「ferocious」(獰猛な男)

<ライト級トップ戦線の現状>


WBA:ジャーボンテイ・デービス(アメリカ)
WBC:シャクール・スティーブンソン(アメリカ)
IBF   :空位 ※ロマチェンコvsカンボソスで決定戦
WBO:空位 ※ナバレッテvsベリンチクで決定戦

 世界的に層の厚い階級だけに、テオフィモ・ロペス(アメリカ)やデビン・ヘイニー(アメリカ)が転級して抜けた現在も力のある選手が揃っている。現時点で最も高い評価を受けているのはWBA王者のジャーボンテイ・デービス(29=アメリカ)だ。一時期はS・フェザー級、ライト級、S・ライト級の王座を同時に保持したこともある3階級制覇王者で、29戦全勝(27KO)の戦績を誇る。6月に18戦全勝(12KO)のフランク・マーティン(29=アメリカ)の挑戦を受ける。
 デービスを脅かす存在になってきたのがWBC王者のシャクール・スティーブンソン(26=アメリカ)だ。同じサウスポーの3階級制覇王者だが、こちらは遠い距離を操る技巧派で体格にも恵まれている。引退宣言したこともあったが、大方の予想どおり現役を続ける意向で、次戦は夏に計画されている。
 IBF王座は今回のワシル・ロマチェンコ対ジョージ・カンボソス(30=オーストラリア)で決定戦が行われ、WBOはエマヌエル・ナバレッテ(29=メキシコ)対デニス・ベリンチク(35=ウクライナ)の勝者を新王者に認定する予定だ。
 ランカー陣もタレント揃いで、デービスに挑むマーティンのほか20戦全勝(16KO)のレイモンド・ムラタラ(27=アメリカ)、東京五輪銀メダリストで近未来の王者として注目と期待を集めるキーション・デービス(25=アメリカ)らが控えている。
 さらに東京五輪決勝でキーション・デービスを破って金メダルを獲得した万能型のアンディ・クルス(28=キューバ)、WBC1位にランクされる30戦全勝(26KO)のサウスポー、ウィリアム・セペダ(27=メキシコ)、スティーブンソンを脅かしたエドウィン・デ・ロス・サントス(24=ドミニカ共和国)の動向にも注目したい。

WBC世界S・フライ級暫定王座決定戦
アンドリュー・マロニー対ペドロ・ゲバラ

団体変えて返り咲きか 飛び級の2階級制覇か

 このクラスのWBC王者、ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)は6月にフライ級の2団体王座を持つジェシー・ロドリゲス(アメリカ)の挑戦を受けることになっている。また、暫定王者としてカルロス・クアドラス(メキシコ)がいたが、前十字靭帯を損傷して戦線離脱。そんな状況となったため今回のアンドリュー・マロニー(33=オーストラリア)対ペドロ・ゲバラ(34=メキシコ)の暫定王座決定戦が挙行される。
 マロニーは2019年11月から2020年6月までWBA王座(獲得時は暫定王座)に君臨した元王者で、戦績は30戦26勝(16KO)3敗1無効試合。昨年5月にはWBO王座決定戦に出場したが、中谷潤人(M.T)に12回KOで敗れた。2回と11回にダウンを喫しながらも奮闘していたが、最終回に左フックを浴びて背中からキャンバスに叩きつけられたシーンを記憶しているファンは多いはずだ。7ヵ月後、10回判定勝ちを収めて再起し、今回の暫定王座決定戦に繋げた。
 一方のゲバラも日本に馴染みの深い選手だ。2014年12月、八重樫東(大橋)を7回KOで破って空位のWBC世界L・フライ級王座を獲得し、11ヵ月後にV3戦のため再来日。仙台で木村悠(帝拳)の挑戦を受けたが、中盤以降の失速が響いて12回判定で敗れた。この王座は木村からガニガン・ロペス(メキシコ)、寺地拳四朗(BMB)へと移動。2017年10月、ゲバラは東京・両国国技館で寺地に挑んだが、小差の判定負けを喫し王座を取り戻すことはできなかった。
 これを機に階級を上げ、10連勝後の昨年11月、クアドラスとのWBC暫定王座決定戦に臨んだが僅少差の判定負けを喫した。今年2月、再起戦で10回判定勝ちを収めている。戦績は46戦41勝(22KO)4敗1分。
 ともに左ジャブを起点にボクシングを組み立てていくタイプだけに、まずは序盤の主導権争いに注目したい。中谷戦で受けた心身両面のダメージが完全に払拭されていることを前提として、地の利があるマロニーに若干のアドバンテージがあるとみる。

記事をシェアする
  • line

Getty Images

×

PAGE TOP