WBO暫定世界ヘビー級タイトルマッチ ツァン・チレイ対ジョー・ジョイス
ツァンが返り討ちか ジョイスがリベンジか
立場を変えて行われる直接再戦
両者は今年4月にイギリスで対戦し、39歳のツァン・チレイ(中国)が37歳のジョー・ジョイス(イギリス)に6回TKO勝ちを収め、WBO暫定世界ヘビー級新王者になった。ジョイスの右目が大きく腫れたためドクターの勧告を受けてレフェリーが試合をストップしたものだが、それまでの展開も一方的だった。ツァンの完勝といえる試合だった。
中国初の最重量級世界王者となったツァンは殊勲の17日後に40歳の誕生日を迎え、ジョイスも再戦の4日前に38歳になった。ともに1試合も挟まずに行われるダイレクトリマッチ。今回もジョイスのホームで開催されるにもかかわらずオッズは5対4でツァン有利と出ている。
17対2のオッズをひっくり返したツァン
ツァンは2014年8月に31歳でプロデビュー。スタートが遅かったのはアマチュアでの活動が長かったからだ。世界選手権には5大会連続で出場し、自国開催の北京五輪ではS・ヘビー級で銀メダルを獲得している。2012年のロンドン五輪にも出場したが、このときは2回戦でアンソニー・ジョシュア(イギリス)に惜敗した。
プロ転向後は活動拠点をアメリカに定め、無名選手を相手に白星を重ねたあと2019年あたりから手応えのある選手と対戦する機会が増えた。印象深いのは2021年2月のジェリー・フォレスト(アメリカ)戦だ。3回までに3度のダウンを奪って圧倒的優位に立ったが、中盤以降はガス欠と相手の反撃に遭って引き分けに持ち込むのがやっとだった。ツァンの名前を広めることにはなったものの評価が上がる試合ではなかった。
昨年8月、39歳になったツァンはフィリップ・フルゴビッチ(クロアチア)とのIBF挑戦者決定戦に臨んだが、3対0の判定で敗退。これでトップ戦線から脱落かと思われたが、捨てる神がいれば拾う神もいた。暫定王者のジョイスから初防衛戦の相手として指名がかかったのだ。オッズは17対2、もちろんジョイス有利である。ところがサウスポーのツァンは右ジャブと左ストレートを効果的に打ち込んでジョイスを痛めつけ、番狂わせを起こしてみせたのだった。
戦績は27戦25勝(20KO)1敗1分。
五輪銀を土産に32歳でプロ転向のジョイス
ジョイスも長い間トップアマとして活躍した選手だ。世界選手権に2度出場したほか欧州選手権や英連邦大会(2014年に優勝)など国際大会の常連といえた。ひときわ輝くのは2016年リオデジャネイロ五輪で獲得したS・ヘビー級銀メダルである。
こうした活動が長かったためプロ転向は32歳と遅かった。ツァンと異なるのは出世が早かった点だ。デビュー戦から10回戦が組まれ、4戦目には英連邦王座を獲得。以後もピークを過ぎた元世界王者や世界挑戦経験者らをバタバタとなぎ倒し、3年前にはダニエル・デュボア(イギリス)にも10回KO勝ちを収めた。さらにベテランのカルロス・タカム(カメルーン/フランス)、クリスチャン・ハマー(ルーマニア/ドイツ)を撃破。昨年9月、元WBO王者のジョセフ・パーカー(ニュージーランド)に11回KO勝ちを収め、WBO暫定王座を獲得している。3団体王者のオレクサンダー・ウシク(ウクライナ)やWBC王者のタイソン・フューリー(イギリス)に対戦を呼びかけていたのはこの頃のことだ。
ところが今春、ツァンに6回TKOで完敗。プロで初黒星を喫するとともに自身の商品価値を急落させてしまった。戦績は16戦15勝(14KO)1敗。
ジョイスは短期間で課題を克服できるか
ツァンが身長198センチ、体重126キロ(初戦)、ジョイスが身長198センチ、体重116キロ(初戦)とふたりとも大型選手だが、戦い方は異なる。ツァンが丹念に右ジャブを突いて左ストレートを狙う技巧派なのに対し、ジョイスは馬力を生かした攻撃型といえる。初戦では5年ぶりにサウスポーと対戦したジョイスの反応の悪さが目立ったが、短期間で課題を克服することができるかどうか。
もともと攻撃力ではジョイスが勝るだけに、ツァンの右ジャブと左ストレートを外しながら体で押し込む展開に持ち込めれば暫定王座奪回が見えてくるはずだ。逆に初戦と同じようにツァンのスピードと左ストレートに十分な対応ができないようだと結果も同じところに落ち着く可能性が高い。
<ヘビー級トップ戦線の現状>
WBAスーパー:オレクサンダー・ウシク(ウクライナ)
WBA :マヌエル・チャー(シリア/ドイツ)
WBC :タイソン・フューリー(イギリス)
IBF :オレクサンダー・ウシク(ウクライナ)
WBO :オレクサンダー・ウシク(ウクライナ)
WBO暫定 :ツァン・チレイ(中国)
3団体統一王者のオレクサンダー・ウシク(36=ウクライナ)とWBC王者のタイソン・フューリー(35=イギリス)の並走が続いている。ウシクは8月にWBA王者だったダニエル・デュボア(26=イギリス)に9回KO勝ちを収めて2度目の防衛を果たした。2019年以降、ウシクは年に1回の登場が続いているうちに36歳になったが、下り坂に入る前にフューリーとの4団体王座統一戦を見たいものだ。
そのフューリーは10月28日に総合格闘技のUFCヘビー級王者だったフランシス・ガヌー(カメルーン)とのノンタイトル戦が決まっている。そして、この試合を無傷でクリアすることが大前提となるが、「12月23日か来年1月にフューリー対ウシクが決定」と先日発表された。
一方、この夏にはデオンテイ・ワイルダー(37=アメリカ)対アンソニー・ジョシュア(33=イギリス)の元王者対決が決定間近とも伝えられたが、続報が流れないまま秋を迎えようとしている。どうせならフューリー対ウシク、ワイルダー対ジョシュアをダブル開催してほしいところだ。近年は30代半ばのトップ選手が数多く活躍してはいるが、できれば全盛を過ぎる前に対戦してほしいものだ。
ベテランがトップを占めているなか、15戦全勝(14KO)のジャレド・アンダーソン(23=アメリカ)、東京五輪S・ヘビー級金メダリストでプロでは13戦全KO勝ちの大型サウスポー、バホディル・ジャロロフ(29=ウズベキスタン)ら新興勢力の台頭が目につく。この若手ふたりの前にやや影が薄くなりかけているが、フランク・サンチェス(31=キューバ)、エフェ・アジャグバ(29=ナイジェリア)にも注目していきたい。
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エキサイトマッチ~世界プロボクシング WBO暫定世界ヘビー級タイトルマッチ ツァン・チレイvsジョー・ジョイス
10/30(月)午後9:00
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