「"世界と戦っているんだ"と強く意識を」ラグビー元日本代表SH田中史朗が11月のテストマッチ4連戦を熱く語る
15年W杯(ワールドカップ)南アフリカ戦の歴史的勝利から10年──節目の年を迎えた日本代表(世界ランキング13位。10月20日現在)は来たる11月に欧州遠征し、その南アフリカを皮切りにアイルランド、ウェールズ、ジョージアと激突。テストマッチ4連戦を迎える。
WOWOWではこの日本代表戦4試合をはじめ、北半球と南半球の強豪が相見えるキルター・ネーションズシリーズを放送・配信。22試合をお届けする。
今回は、15年W杯南アフリカ戦でマン・オブ・ザ・マッチに輝いた偉大な元日本代表SH(スクラムハーフ)田中史朗さんにインタビュー。ゲスト解説を務める11月2日(日)の南アフリカ戦と以後3試合の見どころ、そして「超速ラグビー」を標榜する日本代表の現状についてうかがった。
──日本代表の欧州遠征が間近に迫っています。今年のPNC(パシフィックネーションズカップ)は昨年に続き準優勝でしたが、今の日本代表をどう見ていますか?
「去年よりもチームとしてかなり向上しています。PNC決勝のフィジー戦でもアタックがよく、トライの取り方に日本らしさが出ていました。秋もこのまま継続して『超速ラグビー』をやり遂げてほしいです」
──課題も見えましたか?
「フィジーに簡単にトライを取られていました。もっとチームとしてまとまってディフェンスする必要があります。スティールなどでターンオーバーすることも意識すれば勝利は近づくはずです。あとはキックに対してのコミットもあまりうまくいっていない印象がありますね。自分たちが蹴ったボールをマイボールに戻すことを意識しないと点が取りにくくなります」

──田中さんも長く一緒にプレーしたベテランのFL/LO(フランカー/ロック)リーチ マイケル選手が代表に戻っています。
「やはり存在感があります。彼がいることでチームの士気が上がります。それをLOワーナー・ディアンズ選手に伝えたことで(キャプテンを務めたPNCで)彼もいいリーダーシップを発揮しました。(今後の)リーダーとしてもすごく有望ではないかと思います。バイリンガルの選手がリーダーになることにはプラスの効果があると感じています」

──他にも注目している日本代表選手はいますか?
「FL/No.8(フランカー/ナンバーエイト)のガンちゃん(ベン・ガンター)ですね。1人でボールを持ってトライを取ることができますし(スティールなどで)ピンチをチャンスに変えられる選手でもあります。バックスではSHの3人(藤原忍、福田健太、北村瞬太郎)は世界でもトップクラスの球さばきができていますし、特に藤原選手と福田選手のライバル関係はいい効果を生んでいます。そこに素早くて能力の高い北村選手が入ったことで、SHは誰が出ても遜色がない状態です」

──そんな日本代表は11月の欧州遠征でテストマッチ4連戦に臨みます。まずは11月2日(日)の南アフリカ(世界ランキング1位。10月20日現在)との一戦ですが、対戦が決まったときはどう感じましたか?
「すごくうれしかったですね。僕が若いころは強豪国が日本と戦うこと自体ほとんどなかったですし、こうして南アフリカと戦えるようになったのも日本がそういうレベルに達しつつあるからだと思います」
──15年W杯イングランド大会の南アフリカ戦の歴史的勝利からちょうど10年が経ちました。
「南アフリカは僕たち日本に負けてから大きく変わりました。素晴らしい切り替えによって今は強くなっていますし、トニー・ブラウン(南アフリカ代表アタックコーチ。元日本代表アタックコーチ)が入ったことでFWだけではなくBKも脅威になりました。日本も技術、能力は確実に当時よりも高くなっています。僕らのときとの違いは、世界のどのチームからも注目されていることです。『日本はこういうことをやってくる』と全チームが警戒しているなかで、何一つ手を抜かずに戦い、さらにもう1段階レベルを上げないと負けが続いてしまう可能性もあるので、いかにしていいパフォーマンスを継続できるか、をチームとして考えながらやり抜いてほしいです」
──南アフリカの注目選手、警戒すべき選手をうかがいたいです。
「全員ですが、まずはHO(フッカー)マルコム・マークス選手です。特に自陣ゴールライン前では本当に嫌な存在ですね。1人でもトライを狙えますし、サポートの選手がつくとまず止められません。また、若いSO(スタンドオフ)サーシャ・ファンバーグ=ムゴメズル選手は判断もパフォーマンスも素晴らしいです。SHグラント・ウィリアムズ選手もすごくいいプレーヤーで、この9番(SH)と10番(SO)によるアタックは見ていて本当に楽しいですね」

──日本代表としては、どのあたりに勝機を見出したいでしょうか?
「やはりロースコアに抑えることです。日本も得点はできると思いますが(それ以上に)南アフリカのアタック能力が凄まじいので、とにかくディフェンスでしっかり相手を止めて、ひたすら我慢し続け、最後に相手が疲れたときに取り切ることです。今はどのチームも最後まで高いパフォーマンスを続けています。だからこそ日本はそのさらに上をいかなければなりません。あとはペナルティをしないことですね。最近はペナルティが多くなっているので、もっと"世界と戦っているんだ"と強く意識してほしいです」
──会場は9万人収容のサッカーの聖地、ウェンブリー・スタジアムです。
「うらやましいですね。日本の選手が興奮するのか、緊張するのかは彼ら次第ですが、そういう場所で試合をした経験は、W杯の舞台に立ったときに必ず生きてくると思うので、僕もみんなの表情を見ながら試合を解説したいと考えています。現地のイングランド人はみんな日本を応援してくれると思うので、ぜひその力をプレーに反映してほしいです」
──続いて、11月8日(土)に対戦する世界ランキング3位(10月20日現在)のアイルランドについてうかがいます。同1位に続いて3位のチームとの対戦になります。
「日本に一番近いタイプで(個ではなく)チームとして戦っている印象があります。もちろん選手個人もすごいのですが、それぞれ自分がやるべきことをしっかりやっているので、日本が学ぶべきチームだと思っています。それにしても、日本が世界1位と3位と続けて対戦することなど今まではなかったですね」
──そんなアイルランドの注目選手をお願いします。
「SHジェイミソン・ギブソン=パーク選手は今、世界でもトップですよね。ニュージーランドからアイルランドに舞台を移し、代表になって経験を積んだことでさらにいいSHになりました。同じくニュージーランド出身のWTB(ウイング)ジェームズ・ロウ選手の熱いプレーにも注目しています」

──日本代表はどう戦うべきでしょうか?
「難しいカードが続きますが、やはり運動量ですね。そして自分たちの戦い方を100%全うできるかどうかにかかっています。"それは無理だ"と思っているファンの方々もいると思いますが、だからこそみんなで応援すること、そして勝つことを望んでいます。簡単なことではありませんが"勝利"という言葉をもっと口に出していくことが大事です」
──次は11月16日(日)に対戦する、世界ランキング12位(10月20日現在)のウェールズです。7月の日本での2試合は1勝1敗でしたが、チームとしての印象はいかがでしょうか?
「もちろん弱くはないのですが、ミスが多かったですね。ウェールズらしくないチームだったのでショックでした。そしてあのチームに対して、日本が2戦目に勝てなかったこともショックでした。相手が疲れていた後半に勝ち切るのが日本の強みだと思っていたのですが、勝てませんでした。今回は相手のホームです。ウェールズはファンの応援もチームの気合いの入り方も違いますので、敵地での戦い方を学べるいい機会になると思います」
──ウェールズの注目選手をお願いします。
「FBブレア・マレー選手です。彼もニュージーランド出身で、7月の日本戦でもめちゃくちゃいいプレーをしていました。彼がボールを持てばほぼゲインラインを切っていましたし、日本も彼に翻弄されていた印象があります。まだ24歳、楽しみな選手です」

──世界ランキングは日本代表が1つ下ですが、勝てる可能性についてはいかがでしょうか?
「このツアーのなかでは高いと思います。もっと上位のチームに一気に勝つというのは正直難しい部分もありますので、まずはこういうチームに勝って自信をつけていきたいところです。W杯もそうですが(連戦の)終盤は体も心も厳しくなってくるので、ここでしっかりチャレンジして、勝ち切ってくれる代表の姿を見せてほしいですね」
──日本代表の欧州遠征の最終戦は、11月22日(日)のジョージア(世界ランキング11位。10月20日現在)との一戦です。
「昔よりもFWが強くなっている、というイメージはないですね。以前はスクラム、モールを武器に長く戦ってきたチームですが、昨年の日本戦(24年7月13日。日本23-25ジョージア)では日本がスクラムで勝った場面もありました。FWとBKが融合してアタックしてくるチームになり、新しいラグビーを取り入れている印象があります」

──視聴者のみなさんには日本代表のどんなところを見てほしいですか?
「『超速ラグビー』によるアタックでトライを取り切るところを見てほしいです。あとはディフェンスに尽きますね。タックルはもちろんモールでも止めて、相手に得点を許さなければ負けることはありません。ただ、相手は世界一と言っていいほどアタックが冴えているチームばかりなので、そういう相手に対してどれだけ前に出ながら継続してディフェンスできるか、ぜひ注目してほしいと思います」
現役時代は小さな体で世界のトップチームとの激闘に身を投じ、その圧倒的な強さを肌で感じてきたからこそ、日本のレジェンドの言葉には厳しさがある。だが同時に、そこには大きな期待も込められている。
現役を退いた今も日本代表への思いが人一倍強い田中史朗さんがゲスト解説を務める「南アフリカvs日本」をはじめ、日本代表戦を含むキルター・ネーションズシリーズを、11月はぜひWOWOWで見届けていただきたい。
【WOWOWラグビー 11月 放送・配信スケジュール】
「4週連続日本代表戦!WOWOWラグビー SP」

11/2(日) 午前0:45~ 「南アフリカ vs 日本」
11/8(土) 午後9:00~ 「アイルランド vs 日本」
11/16(日) 午前2:15~ 「ウェールズ vs 日本」
11/22(土) 午後8:45~ 「ジョージア vs 日本」 ※ライブ配信のみ
「ラグビー テストマッチ 2025 キルター・ネーションズシリーズ」
11/1(土)~29(土) 20試合をライブ配信、注目10試合を放送 ※アーカイブ配信あり
<関連番組>
エディータイムズ2025 特別編「リーチ マイケル 人生の軌跡~桜を背負う男の生き様、そして未来へ~」
日本ラグビーの象徴、リーチ マイケルの"ラグビー選手"としての面と"ひとりの人間"としての両面に迫るスペシャルトーク番組。
出演/リーチ マイケル(ラグビー日本代表、東芝ブレイブルーパス東京)、大西将太郎(元ラグビー日本代表、WOWOWラグビー解説者)、豊原謙二郎(元NHKアナウンサー、スポーツキャスター)
WOWOWオンデマンド ラグビー(https://wod.wowow.co.jp/genre/rugby)
WOWOW公式YouTube(https://www.youtube.com/user/WOWOWofficial)
にて公開中
「ラグビー日本代表 運命の南アフリカ戦生中継直前 SP」
11/1(土)
午後4:45~「ラグビー テストマッチ 2024 オータム・ネーションズシリーズ フランスvs日本」
午後7:00~「ラグビー テストマッチ 2024 オータム・ネーションズシリーズ イングランドvs日本」
午後9:20~「南アフリカ戦生中継直前!10年前の感動再び ラグビーワールドカップTM 2015年大会 南アフリカvs日本」
午後11:20~ 映画『ブライトン・ミラクル』
※「ラグビーワールドカップTM 2015年大会 南アフリカvs日本」 と 映画『ブライトン・ミラクル』は、10/1(水)~配信あり
<関連企画>
田中史朗が講師となり、Zoomを使って直接受講者へ語る
「コミュニケーションの秘訣は『声かけ』にあり。勝てるチームの作り方講座」
申し込みはこちらから↓
https://wowshop.jp/Page/special/houkago/
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