WBA世界バンタム級タイトルマッチ 井上拓真対堤聖也
高校2年以来12年ぶりの対戦
昨年4月、空位のWBA世界バンタム級王座を獲得した井上拓真(28=大橋)のV3戦。挑戦者の堤聖也(28=角海老宝石)とはアマチュア時代の高校2年時のインターハイ(L・フライ級準決勝)で対戦し、3回にスタンディング・カウントを聞かせた井上がポイント勝ちを収めている。そんな両雄が舞台をプロに移し、しかも世界戦として12年ぶりに拳を交えることになった。
「返り討ちにして先に進みたい」と井上拓真
井上は高校3年時に17歳でプロデビューし、5戦目にOPBF東洋太平洋S・フライ級王座を獲得。その後、階級をバンタム級に上げて2018年12月には同級のWBC暫定王座に就いている。正王者のノルディーヌ・ウバーリ(フランス)に敗れて在位は約10ヵ月に終わったが、そのあとはOPBF東洋太平洋バンタム級王座を再獲得したりS・バンタム級でWBOアジアパシフィック王座を獲得したりと地域王座戦では圧倒的な強さを見せつけた。
現在の王座は兄の井上尚弥(大橋)が返上した4王座のうちのひとつで、拓真も「自分も4本のベルトを統一したい」と意欲をみせている。初防衛戦では元IBF世界S・フライ級V9王者のジェルウィン・アンカハス(フィリピン)を9回KOで一蹴して評価を上げ、次戦では初回のダウンを挽回して石田匠(井岡)に大差の12回判定勝ちを収めている。
兄のような一撃必倒のパンチはないが、ディフェンス能力と試合運びの巧さ、スタミナと耐久力に優れている。今回の試合を前に井上は「(堤は)気持ちが強くタフ」と分析しており、「返り討ちにして先に進みたい」とコメントしている。戦績は21戦20勝(5KO)1敗。海外のスポーツブックでは3対1で井上有利と出ている。
「僕には打ち合いしかない」と堤
堤は高校では日本一になれなかったが、大学に進んだあと2018年3月にプロデビューした。当時、同期の田中恒成(畑中)はすでに世界2階級制覇を成し遂げ、井上もOPBF東洋太平洋バンタム級王座を獲得して世界ランクに名を連ねていた。先行するライバルたちを追いかけるように5連勝(4KO)をマーク。6戦目に中嶋一輝(大橋)と8回、次戦では元世界王者の比嘉大吾(志成)と10回、いずれも引き分けという結果に終わったが、むしろ評価を上げたともいえる。
2022年6月に日本バンタム級王座を獲得し、今年になって世界挑戦の準備のために返上するまで4度の防衛を果たした。戦績は13戦11勝(8KO)2分。旺盛なスタミナと手数で攻め込む右構えのファイターだが、機を見て左構えにチェンジすることもある。
今回の試合を前に堤は「(井上は)ボクシングIQと技術が高い選手。崩すのはたいへんそうだが、僕には打ち合いしかないので」と打撃戦を仕掛けることを宣言している。
<バンタム級トップ戦線の現状> ※2024年10月12日時点
WBA:井上拓真(大橋) vs 堤聖也(角海老宝石)
WBC:中谷潤人(M.T) vs ペッチ・ソー・チットパッタナ(タイ)
IBF:西田凌佑(六島) vs アヌチャイ・ドンスア(タイ)
WBO:武居由樹(大橋) vs ユッタポン・トンディー(タイ)
今年2月、中谷潤人(26=M.T)がWBC王座を獲得し、5月には西田凌佑(28=六島)と武居由樹(28=大橋)が相次いでIBF王座、WBO王座を奪取。昨年4月に戴冠を果たしていたWBAの井上拓真(28=大橋)と合わせ、バンタム級の主要4団体王座を日本勢が独占するという状態になった。こうなるとファンは「誰がいちばん強いのか」というシンプルな疑問を抱き、統一戦を期待するものだ。それは4人の王者も陣営も同様で、遠からず統一戦に向かうムードが漂ってきている。
さらにキックボクシングから転向して5戦全勝(2KO)の那須川天心(26=帝拳)、一撃KOの威力を持つ左ストレートに磨きがかかってきた日本王者の増田陸(27=帝拳)、さらに進退保留となっている比嘉大吾(29=志成)、魅惑のパンチャー、栗原慶太(31=一力)と力のある日本人ランカーが控えている。
海外勢ではWBO2位、WBC7位にランクされるダビド・クェジャル(23=メキシコ)が4王者を脅かす一番手といえそうだ。28戦全勝(18KO)の戦績を残している長身選手で、昨年10月に元2階級制覇王者のルイス・コンセプション(パナマ)に8回TKO勝ちした星が光る。そのほか元2階級制覇王者のモイセス・フエンテス(メキシコ)、世界挑戦経験者のヒルベルト・ペドロサ(パナマ)、同じく世界挑戦経験者のホセ・ベラスケス(チリ)にも勝っているが、いずれも相手がピークを過ぎていたため結果どおりの評価を与えるところまではいかない。ただ、若くて勢いがあり一気に成長する可能性もあるだけに要注目だ。
WBA1位、WBO5位のアントニオ・バルガス(28=アメリカ)は20戦18勝(10KO)1敗1無効試合の強打者で、今年2月にはジョナサン・ロドリゲス(25=プエルトリコ/アメリカ ※2024年7月に那須川天心に3回TKO負け)とダウン応酬のすえ7回終了TKO勝ちを収めている。12月に試合が予定されているが、このまま勝ち進めばWBAの指名挑戦者になる可能性もある。
WBO世界L・フライ級王座決定戦
岩田翔吉対ハイロ・ノリエガ
アジアの雄 vs 元欧州王者
ジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)がフライ級に転向するために返上したWBO世界L・フライ級王座を1位の岩田翔吉(28=帝拳)と2位のハイロ・ノリエガ(31=スペイン)が争う。
「2年前よりもボクシングもメンタルも強くなった」と岩田
岩田は高校3年時のインターハイで田中恒成、井上拓真を連破して優勝後、早稲田大学に進学。そのためライバルたちよりもプロデビューが4年遅れとなった。2018年12月の初陣はアメリカのカリフォルニア州カーソンで行い4回KO勝ちを収めている。
7戦目に日本L・フライ級王座を獲得し、次々戦ではOPBF東洋太平洋王座とWBOアジアパシフィック王座も手に入れた。この勢いを維持してゴンサレスの持つ世界王座に挑んだが、ベテランの巧みな試合運びの前に微妙なポイントを落とし12回判定で敗れた。5ヵ月後に3回KO勝ちで再起し、その後の3戦をいずれも6回TKOで終わらせ、WBOで最上位にランクされるまでになった。右のボクサーファイター型のカテゴリーに入るが、自分から積極的に仕掛ける攻撃型でもある。戦績は14戦13勝(10KO)1敗。2年ぶり2度目の大舞台を前に「あのときよりもボクシングもメンタル面も強くなった」と自信をみせている。
3階級で地域王座を獲得したノリエガ
ノリエガは2018年9月にプロデビューしたが、それ以前はサッカーの練習に明け暮れていたという。2021年6月にEBU欧州連合フライ級王座を獲得し、5ヵ月後にはWBCシルバーL・フライ級王座も手に入れている。さらに2年前にはフライ級でEBU欧州王座、今年3月にはニカラグアに遠征してWBO中南米L・フライ級王座を獲得と、階級をまたがって各地のベルトをコレクションしている。岩田とは対照的に直近の4戦は10回、12回、8回、12回とすべて判定で勝ってきている。戦績は14戦全勝(3KO)。左右に小刻みに動きながら左ジャブから右フックを狙う攻撃パターンを持っている。戦績が示すとおりパワーには欠けるが、攻防ともに変則的なため相手にとっては戦いにくいタイプといえる。
海外のスポーツブックのオッズは7対4で岩田有利と出ている。
WBO世界フライ級タイトルマッチ
アンソニー・オラスクアガ対ジョナサン・ゴンサレス
KO率63%のファイター vs サウスポーの技巧派
今年7月、王座決定戦で加納陸(大成)に3回KO勝ちを収めてWBO世界フライ級のベルト保持者になったアンソニー・オラスクアガ(25=アメリカ/帝拳)の初防衛戦。ジョナサン・ゴンサレス(33=プエルトリコ)は3年近く保持したWBO世界L・フライ級王座を返上、2階級制覇を狙ってオラスクアガに挑む。
4戦連続 日本のリングに上がるオラスクアガ
オラスクアガはアマチュアを経て2020年9月にプロデビュー。2戦目と3戦目には世界挑戦経験者を下し、地域王座も獲得。昨年4月、ゴンサレスの急病にともない代役として寺地拳四朗(BMB)の持つWBA・WBC世界L・フライ級王座に挑んだが、9回TKOで敗れた。しかし、2冠王者をあと一歩まで追い詰めるなど健闘が光り、敗れはしたものの逆に評価を上げたほどだった。再起戦は世界ランカーのジーメル・マグラモ(フィリピン)に苦戦を強いられたが、7回TKO勝ち。そして加納を倒して戴冠を果たしたわけだ。寺地戦以降、4戦連続で日本のリングに上がることになる。8戦7勝(5KO)1敗のファイターで、試合は常にスリリングだ。
3度目の来日試合となる技巧派のゴンサレス
対するゴンサレスも日本に馴染みの選手で、これが3度目の来日試合となる。2019年8月、名古屋市で田中恒成(畑中)の持つWBO世界フライ級王座に挑んだときは先にダウンを奪うなど善戦し、ポイントでもリードを奪っていたが、弱点のボディを攻められて7回TKOで敗れた。
それを機に階級を下げ、2021年10月にエルウィン・ソト(メキシコ)を下してWBO世界L・フライ級王座を獲得。V2戦の際に再来日し、岩田翔吉(帝拳)に12回判定勝ちを収めている。その後、体調不良のため何度か試合キャンセルが続き、やっと今年3月に暫定王者との団体内統一戦が決まり、判定勝ちを収めている。戦績は33戦28勝(14KO)3敗1分1無効試合。サウスポーの技巧派で、見た目は強面だが戦いぶりは臆病ともいえるもので、その分、防御や試合運びに長けている。
ファイター対サウスポーの技巧派という対照的な組み合わせだが、オッズは7対4でオラスクアガ有利と出ている。
※井上対堤、岩田対ノリエガ、オラスクアガ対ゴンサレス
3試合とも年齢は10月13日、14日の試合時
◆[WOWOW エキサイトマッチ 放送・配信情報]◆
WBA世界バンタム級タイトルマッチ
井上拓真 vs 堤聖也
WBO世界L・フライ級王座決定戦
岩田翔吉 vs ハイロ・ノリエガ
WBO世界フライ級タイトルマッチ
アンソニー・オラスクアガ vs ジョナサン・ゴンサレス
12/30(月)午後9:00
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NAOKI FUKUDA