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4団体統一世界S・バンタム級タイトルマッチ 井上尚弥対ルイス・ネリ

「モンスター」 vs 「パンテラ(豹)」

 世界的に高い評価と知名度を誇る「モンスター」井上尚弥(31=大橋)が、昨年12月にひとつに束ねたS・バンタム級王座の防衛戦に臨む。相手のルイス・ネリ(29=メキシコ)は「パンテラ(豹)」というニックネームを持つサウスポーの元2階級制覇王者で、現在はWBC1位、WBO2位、WBA4位にランクされている。

2試合 半年足らずでS・バンタム級を平定

 井上はプロ6戦目に獲得したL・フライ級王座に始まり、フライ級を飛び越えてWBOのS・フライ級、そしてバンタム級4団体王座、さらにS・バンタム級でも4団体王座を手にしてきた。戦績は26戦全勝(23KO)で、そのうち21試合が世界戦(21勝19KO)だ。中身の濃いキャリアといえる。この4月で31歳になったが、目下7連続KO勝ちと勢いは増すばかりだ。
 すでにS・バンタム級でも2試合をこなしており、昨年7月のスティーブン・フルトン(アメリカ)戦が8回TKO勝ち、12月のマーロン・タパレス(フィリピン)が10回KO勝ちと力の差を見せつけている。フルトン戦では計量後のリバウンドを含めて手探りで体重調整をした印象があったが、タパレス戦では違和感なくベストコンディションがつくれたようだ。今回も万全の調整でリングに上がるものと思われる。
 スピード、パワー、テクニック、スタミナ、タフネス、経験値などボクサーが戦ううえで必要な戦力は極めて高い次元でフル装備しており、死角らしいものは見当たらない。あえて不安材料を探すとすれば4万人超の東京ドームで戦うという点だろう。「とてつもない試合をしたい」と意気込んでいるだけに、それが力みになる危険性はある。

初の挫折後は4連勝と復調のネリ

 挑戦者のネリは36戦35勝(27KO)1敗の戦績を残しているサウスポーの強打者で、過去に2度、日本で戦った経験を持っている。最初は2017年8月で、山中慎介(帝拳)を4回TKOで破ってWBC世界バンタム級王座を奪っている。しかし、試合後にドーピング違反が発覚。WBCが調査に乗り出したが、結果として「山中と再戦すること」という灰色決着に終わった。その再戦は2018年3月に行われたが、今度は前日計量で2.3kgもオーバー。再計量でも規定内に収めることができず失格となり王座を失った。ブーイングのなか、ネリは山中に2回TKO勝ちを収めている。
 その後もバンタム級に留まったが、挑戦者決定戦で体重超過するなどルール違反が続いたためS・バンタム級に転向。2020年9月にはWBC王座を獲得し、2階級制覇を成し遂げた。しかし、2021年5月、WBA王者のブランドン・フィゲロア(アメリカ)にボディを攻められ7回KO負けを喫した。これが唯一の敗北だ。その後は4連勝(3KO)と復調している。

34年ぶりの東京ドーム決戦 主役は「モンスター」

 ネリはサウスポーの連打型強打者で、井上も「攻撃的で打たれ強さもある」と警戒している。そのうえで「ネリが来るところをどう潰すか。足(距離)で外すのか、攻撃で潰すのか。どちらでもいけるように準備する」と話していた。
 「宇宙で一番強い」と評されていた世界ヘビー級王者のマイク・タイソン(アメリカ)が伏兵ジェームス・ダグラス(アメリカ)に10回KO負けを喫した世紀の番狂わせから34年。日本人世界王者がボクシングのイベントのメインとして東京ドームのリングに上がる歴史的な一戦だ。

<TALE OF THE TAPE 両選手のデータ比較表>


  井上尚弥  ルイス・ネリ
生年月日/年齢 1993年4月10日/31歳 1994年12月12日/29歳
出身地 神奈川県座間市 メキシコ・ティファナ
アマチュア実績 11年世界選手権出場  
アマチュア戦績 81戦75勝(48KO)6敗 9戦全勝
プロデビュー 2012年10月 2012年5月
獲得王座 WBC L・フライ級
WBO S・フライ級
4団体バンタム級
4団体S・バンタム級
WBC バンタム級
WBC S・バンタム級
プロ戦績 26戦全勝(23KO) 36戦35勝(27KO)1敗
KO率 88% 75%
世界戦戦績 21戦全勝(19KO) 4戦3勝(2KO)1敗
※自身の計量失格試合を含む
身長/リーチ 165cm/171cm 165cm/167cm
戦闘スタイル 右ボクサーファイター型 左ファイター型
ニックネーム 「モンスター」 「パンテラ(豹)


<S・バンタム級トップ戦線の現状>


WBA:井上尚弥(大橋)
WBC:井上尚弥(大橋)
IBF   :井上尚弥(大橋)
WBO:井上尚弥(大橋)

 4年7ヵ月かけて集めたバンタム級4団体王座を返上し、S・バンタム級転向を発表したのが昨年1月のこと。その半年後、井上はスティーブン・フルトン(29=アメリカ)を8回TKOで倒して一気にWBC・WBO2団体の王座を奪取。さらに12月にはWBAとIBFの王座を持つマーロン・タパレス(32=フィリピン)を10回KOで下して4団体の王座を統一した。このクラスは2試合、わずか半年足らずで平定したことになる。
 そんな4階級制覇王者に対し、WBCはルイス・ネリ(29=メキシコ)を指名挑戦者として推し、WBAはムロジョン・アフマダリエフ(29=ウズベキスタン)に最優先で挑戦する権利を与えている。またIBFとWBOは1位にサム・グッドマン(25=オーストラリア)をランクしている。ただし、井上と3選手の間には実績と総合力で明らかな差が認められるのは事実だ。
 このほか29戦28勝(16KO)1分のアラン・ピカソ(23=メキシコ)、16戦全勝(8KO)のリアム・デービース(28=イギリス)、元王者のTJ(テレンス・ジョン)・ドヘニー(37=アイルランド)、ジョンリエル・カシメロ(35=フィリピン)も控えているが、4団体王者との差は大きいものがある。

WBA世界バンタム級タイトルマッチ
井上拓真対石田匠

前戦で覚醒した王者vs WBA指名挑戦者

 昨年4月にWBA世界バンタム級王座を獲得し、今年2月の初防衛戦では元IBF世界S・フライ級V9王者のジェルウィン・アンカハス(フィリピン)を9回KOで撃退した井上拓真(28=大橋)が、WBA1位にランクされる指名挑戦者の石田匠(32=井岡)を迎え撃つ。

前戦で元V9王者をKO  2ヵ月半でリングに上がる井上拓真

 井上は昨年4月、兄が返上して空位になったバンタム級4王座のうちのひとつ、WBA王座をベテランのリボリオ・ソリス(ベネズエラ)と争い、巧みに迎撃して12回判定勝ちを収めた。秋に予定していたジェルウィン・アンカハス(フィリピン)との初防衛戦は自身の負傷で延期になったが、仕切り直しとなった今年2月の試合では巧さと強さを見せつけ、S・フライ級王者時代に9度の防衛を記録した強敵を9回KOで退けた。井上のベストファイトともいえる試合だ。
 その試合からわずか2ヵ月半という短いスパンで石田との指名試合に臨む。この点に少なからず不安はあるが、井上自身は「調子のいい状態をキープしたまま調整できるので問題ない。歴史的なイベントに参加できるので嬉しい」と高いモチベーションを持っている。戦績は20戦19勝(5KO)1敗。

6年半ぶり2度目の世界挑戦に辿り着いた石田

 対する石田もモチベーションという点では負けていない。日本王座を5度防衛後、2017年10月に臨んだ世界初挑戦でカリド・ヤファイ(イギリス)に12回判定負けを喫しており、6年半をかけて2度目の大舞台に戻ってくることになったのだ。この間、2度の惜敗を経験しており、その分、今回の試合に向けた意気込みは並々ならぬものがある。「熱い試合をしてKOで勝つ」と宣言している。
 身長173cm、リーチ177cmの石田の主武器は左のジャブだ。上体を丸めた懐深い構えから速くて正確なジャブを突いて主導権を握り、右ストレートに繋げるボクシングを身上としている。戦績は37戦34勝(17KO)3敗。

左ジャブの突き合いに注目

 石田が「バチバチの試合をする」と舌戦を仕掛ければ井上も「望むところ」と応じていたが、両者の戦闘スタイルを考えれば技術戦になると見るべきだろう。長く速い石田の左ジャブに対し、井上は速くてタイミングのリターンの左ジャブを持っている。まずは左ジャブの差し合いに注目したい。

<TALE OF THE TAPE 両選手のデータ比較表>


  井上拓真 石田匠
生年月日/年齢 1995年12月26日/28歳  1991年11月17日/32歳
出身地 神奈川県座間市 大阪府大阪市
アマチュア戦績 57戦52勝(14KO)5敗 11戦10勝(4KO)1敗
プロデビュー 2013年12月 2009年2月
獲得王座 WBAバンタム級  
プロ戦績 20戦19勝(5KO) 37戦34勝(17KO)3敗
KO率  25% 46%
世界戦戦績 4戦3勝(1KO)1敗 1戦1敗
身長/リーチ 164cm/163cm 173cm/177cm
戦闘スタイル 右ボクサーファイター型 右ボクサー型

<バンタム級トップ戦線の現状>


WBA:井上拓真(大橋)
WBC:中谷潤人(M.T)
IBF   :西田凌佑(六島)
WBO:武居由樹(大橋)

 2024年を迎えた時点ではWBAの井上拓真(28=大橋)だけがバンタム級王者だったが、2月に中谷潤人(26=M.T)がWBC王座を獲得し、5月4日に西田凌佑(27=六島)、そして5月6日に武居由樹(27=大橋)がWBO王座を奪取。日本人が主要4団体の世界王座を独占することになった。
 それだけではない。各団体のランキングを見ても日本人選手の名前が次から次に出てくるのだ。元WBC世界フライ級王者の比嘉大吾(28=志成)はWBO1位、WBA3位、WBC9位、IBF10位にランクされており、前日本バンタム級王者の堤聖也(28=角海老宝石)もWBA2位、IBF3位、WBO7位、WBC11位の好位置につけている。このほか那須川天心(25=帝拳)、栗原慶太(31=一力)、増田陸(26=帝拳)が15傑に名を連ねている。王座統一戦とともに世界を舞台にした日本人同士の最強決定戦も期待したいところだ。
 海外のランカーでは7月20日に中谷に挑むビンセント・アストロラビオ(27=フィリピン)、WBA1位、WBO4位のアントニオ・バルガス(27=アメリカ)、まだ試されてはいないものの27戦全勝(17KO)の戦績を残しているWBO2位、WBC5位、ダビド・クェジャル(22=メキシコ)らに注目したい。

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(C)NAOKI FUKUDA

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