パリ在住・文化ジャーナリストが綴る 読んで 観て 行きたくなるフランス映画の魅力
世界の注目がパリに集まる今年の夏、このコラムを読んでフランス映画の世界に出会ってみませんか?読んだ後はきっと映画が観たくなる!
1. フランス発!映画界に革命をもたらした世界的ムーブメント
2. 彼女が特別な理由。フランス映画界の至宝、カトリーヌ・ドヌーヴ
3. フランス映画と音楽の蜜月関係
4. 男たちの美学。フレンチ・フィルム・ノワール
5. フランス映画、イケメンの歴史
6. ヒットメーカー、リュック・ベッソンとフレンチ・アクション
7. フランス料理と映画の美味しい関係
8. 『アメリ』が案内するレトロなパリの魅力
9. パリまで瞬間移動 映画で花の都を堪能
10. タブーに挑む魔術師、フランソワ・オゾン監督の魅力
1. フランス発!映画界に革命をもたらした世界的ムーブメント
≪伝統を否定し、自由な映画撮影へ!斬新で魅力的な女性像も確立。≫
フランス映画と言えばやはり、ヌーヴェル・ヴァーグから語らずにはいられない。フランスの映画史におけるだけでなく、世界的にも大きな影響を及ぼしたムーブメントだからだ。1950年代後半、カイエ派と呼ばれる、主にカイエ・デュ・シネマ誌出身のジャン=リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォー、エリック・ロメールといった監督たちが、それまでの伝統的な映画作りであるスタジオ撮影を否定し、自由な手法で映画を撮り始めた。彼らの作品が愛された理由のひとつに、斬新で魅力的な女性像を作りあげたことが挙げられる。『勝手にしやがれ』(1960)のボーイッシュな魅力に満ちたジーン・セバーグ、『気狂いピエロ』のキュートなアンナ・カリーナ、『軽蔑』のコケティッシュなブリジット・バルドー、『突然炎のごとく』の男たちを操る女王様的ジャンヌ・モローなど。彼女たちの奔放な魅力はスクリーンからはみ出し、そのファッションやアリュール(振る舞い)までもが、今日に至るまで女性たちに大きな影響を与え続けている。
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2. 彼女が特別な理由。フランス映画界の至宝、カトリーヌ・ドヌーヴ
≪常に新しい役柄にチャレンジし続けるフランス映画界のレジェンド≫
カトリーヌ・ドヌーヴが「フランス映画界の至宝」と言われる理由は、その美しさだけではない。その美貌に甘んじることなく、果敢にさまざまな役柄にチャレンジし、たぐいまれなキャリアを築き上げたことに拠る。『シェルブールの雨傘』や『ロシュフォールの恋人たち』、『終電車』といった代表作から、ブルジョワの主婦が売春をする問題作『昼顔』、自我に目覚める女性の屈折した感情を表現した『哀しみのトリスターナ』、工場で働きながら歌って踊るラース・フォン・トリアーのミュージカル映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』、フランソワ・オゾンの『8人の女たち』やお茶目なジャージ姿も眩しい『幸せの雨傘』など。過去の栄光にとらわれず、自らイメージを刷新し続けるその振れ幅が、わたしたちを魅了し続ける。
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3. フランス映画と音楽の蜜月関係
≪「シャバダバダ~」だけじゃない、フランス映画の音楽≫
フランス映画をフランス映画たらしめているもののひとつに、映画音楽がある。すぐに思い浮かぶのは、「シャバダバダ〜」のメロディで知られる『男と女』だろう。フランシス・レイによるこの洒脱な音楽がなかったら、果たして本作はこれほどヒットしただろうか。
レイと並んで、映画音楽の偉大な作曲家として記憶されるのがミシェル・ルグラン。あまりに有名な悲恋の名曲、「駅(ギイの出発)」で知られる『シェルブールの雨傘』、「キャラバンの到着」など軽快な曲に満ちた『ロシュフォールの恋人たち』、官能的なメインテーマの『太陽が知っている』、ラブソング「愛、そして愛」が有名な『ロバと王女』など、60〜70年代に記念碑的な作品を手がけ、その後はハリウッドからも声がかかるように。生涯でアカデミー賞を2度受賞している巨匠である。
近年ではリュック・ベッソンのほぼ全作を担当しているエリック・セラも印象的。フランス映画と音楽は、蜜月の関係にあるのだ。
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4. 男たちの美学。フレンチ・フィルム・ノワール
≪アメリカ風とは一味違う!男たちの友情と裏切り≫
1940年代、アメリカで生まれた犯罪をテーマにしたフィルム・ノワールというジャンルがフランスに飛び火し、フレンチ・フィルム・ノワールが次々と生み出されたのが50年代から60年代にかけて。ジャック・ベッケル、ジャン=ピエール・メルヴィル、アンリ・ヴェルヌイユ、ジョゼ・ジョヴァンニといった監督たちが知られる。
フランス風のフィルム・ノワールは、より男たちの世界における友情と裏切りにフォーカスしたものが多い。ジャン・ギャバン、リノ・ヴァンチュラ、アラン・ドロン、ジャン=ポール・ベルモンド、セルジュ・レジアニら、スタイリッシュで寡黙な男たちが織りなすドラマは、アメリカ映画とはひと味異なる雰囲気を醸し出す。そんな魅力がハリウッドに逆輸入されたのか、その後はチャールズ・ブロンソンやジーン・ハックマンといった、アメリカのスターたちがフランスで活躍するフィルム・ノワールも作られるようになった。
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5. フランス映画、イケメンの歴史
≪改めて知りたい、フランス今昔イケメン史≫
フランスでは、美男俳優は人気が出ないと言われながらも、イケメンの歴史は深い。まずはモノクロ映画時代を代表し、36歳で急逝したジェラール・フィリップがいる。コスチューム劇から現代劇まで、正統的二枚目の魅力で観客を魅了した。彼の後を引き継ぐのが、泣く子も黙るアラン・ドロン。25歳で出演した『太陽がいっぱい』で一世を風靡した彼は、その後フィルム・ノワールで渋さに磨きをかけ、長いキャリアを築くことに成功した。
80年代以降は『グラン・ブルー』で国民的アイドルとなったジャン=マルク・バール、『マトリックス・リローデッド』などハリウッド映画でもイケメン・フレンチぶりを披露したランベール・ウィルソン、ノーブルな育ちの良さを発揮したギャスパー・ウリエル、ダンディズム漂うルイ・ガレル、しなやかな柔軟さを持つピエール・ニネなど。振り返れば、イケメンもフランス映画に重要な役割を果たしているのだ。
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6. ヒットメーカー、リュック・ベッソンとフレンチ・アクション
≪フランス発、世界が熱狂したエンターテインメント作品の監督!≫
80年代から90年代にかけてフランス映画界を牽引し、ハリウッドに勝るとも劣らぬエンターテインメントを打ち出したのが、ヒットメーカー、リュック・ベッソンだ。『グラン・ブルー』で若者層から圧倒的な支持を得た後、『ニキータ』『レオン』『フィフス・エレメント』『ジャンヌ・ダルク』といったアクション、SFヒット作を放ち、不動の地位を得る。
同時期にプロデュース業にも力を入れ始め、『TAXi』シリーズや、『96時間』のフランチャイズが大ヒット。彼が率いる製作会社ヨーロッパ・コープで、多彩な若手監督が排出されていった。
確固としたベッソン・カラーを持つ一方、それ以前は作家主義のイメージが強かったフランス映画界にポップな娯楽性をもたらし、新たな観客層を開拓した点でも、その存在意義は大きい。
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7. フランス料理と映画の美味しい関係
≪フランス料理の豊かさは、映画のテーマとしても尽きることがない!≫
フランス映画に料理を題材にしたものが少なくないのは、フレンチ・キュイジーヌの歴史の深さと比例する。もっと有り体に言えば、フランス人にとっては食も重要な文化なのだ。ワインしかり、チーズしかり。さらに階級社会が歴史的に食文化に大きな影響を与えてきたことは、『宮廷料理人ヴァテール』のような映画を観てもよくわかる。最近では『ポトフ 美食家と料理人』が、芸術としてのフランス料理をよく描いていた。一方、現代の実話をもとにした『ウィ、シェフ!』では、移民の子供たちが料理を学ぶことを通して開眼し、将来への夢を抱く過程が描かれている。彼らのなかから将来、三つ星シェフが生まれる可能性もあるだろう。
フランス料理の豊かさは、映画のテーマとしても尽きることがないのである。
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8. 『アメリ』が案内するレトロなパリの魅力
≪一週間で百万人の動員!「パリ熱」を加速させた『アメリ』≫
2001年、『アメリ』がフランスで公開されると、一週間で百万人を超える動員を集めロングラン・ヒットを記録。その人気は海外にも飛び火し、たちまち2000年代のフランス映画を代表する作品となった。
本作がここまで受けた理由のひとつは、パリのモンマルトル地域を舞台にしたレトロなフランスらしさにある。リアルとは言えないが、いわばジャン=ピエール・ジュネ監督が理想とする、人情に満ちた社会。またこの地域特有の、石畳の曲がりくねった坂道などが古き良き情緒を醸し出し、外国人観光客のあいだに「パリ熱」を加速させた。アメリが働くカフェ<Café des Deux Moulins/カフェ・デ・ドゥ・ムーラン>はいまも健在で、店の奥にはアメリのポートレートが飾ってある。
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9. パリまで瞬間移動 映画で花の都を堪能
≪パリは映画の都。あのスポットもこのスポットも映画に登場!≫
映画を観る楽しみのひとつに、ふだんは行けない観光スポットを目にできる喜びがある。とくにパリを舞台にした、さまざまなモニュメントが登場する映画は少なくない。
『エッフェル塔〜創始者の愛〜』は、題名通りギュスターヴ・エッフェルがパリ随一のモニュメントを建設するまでの苦労と、知られざる恋物語を描いた作品。本作を観るとエッフェル塔を見る目が違ってくるかもしれない。
オペラ座の伝説を作り上げたガストン・ルルーの小説の映画化である『オペラ座の怪人』から、オペラ座バレエ・ダンサーのマリオン・バルボーが主演した『ダンサー イン Paris』まで、パリ・ガルニエ宮を舞台にした作品も人気だ。その他にも凱旋門やルーヴル美術館、『インセプション』『地下鉄のザジ』にも登場するビル・アケム橋、ムーラン・ルージュなど、映画に登場する人気スポットに事欠かないのが、パリという街ならではだろう。
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10. タブーに挑む魔術師、フランソワ・オゾン監督の魅力
≪多作な鬼才、フランソワ・オゾン≫
現代のフランス映画を刺激的にしている監督のひとりに、鬼才フランソワ・オゾンがいる。ほぼ年に1作のペースで多彩な作品を撮り続ける彼は、カテゴリーに括るのが不可能だ。強いて言えばタブーに挑み続ける監督と言えるだろうか。『危険なプロット』や『2重螺旋の恋人』のような屈折した設定のものから『8人の女たち』のような意表を突くコメディ、や女装に惹かれる男性を主人公に、性別違和のテーマに切り込んだ『彼は秘密の女ともだち』など。女優の演出にも長け、たとえば『すべてうまくいきますように』ではソフィー・マルソーを起用して、それまでのエイジレスで美しいイメージから離れたコンプレックスを抱える作家の役柄を与え、その芸域を広げる機会を与えた。その新作を心待ちにしているファンが多いのも頷ける。
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佐藤久理子
パリ在住、文化ジャーナリスト。国際映画祭に精通し、各メディアで映画人の取材や批評を手がける。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。フランス映画祭の作品選定アドバイザーを務める。
「突然炎のごとく」©1961 LES FILMS DU CARROSSE 「哀しみのトリスターナ」©1970 STUDIOCANAL - TALIA FILMS. All Rights reserved. 「ロバと王女」©Ciné-Tamaris 「狼は天使の匂い」©1972 STUDIOCANAL - Meduza Distribuzione - Tous Droits Reserves 「太陽がいっぱい」©1960 STUDIOCANAL - Titanus S.P.A. 「レオン 完全版」©1994 GAUMONT/LES FILMS DU DAUPHIN 「ウィ、シェフ!」©Odyssee Pictures - Apollo Films Distribution - France 3 Cinema - Pictanovo - Elemiah- Charlie Films 2022 「アメリ」©2001 UGC IMAGES-TAPIOCA FILMS-FRANCE 3 CINEMA-MMC INDEPENDENT-Tous droits reserves 「エッフェル塔~創始者の愛~」©2021 VVZ Production - Pathe Films - Constantin Film Produktion - M6 Films 「2重螺旋の恋人」©2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - PLAYTIME - FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU